ごあいさつ

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広域行政について
徳島中央広域連合長(鴨島町長)戸田 稔

 私は、大分県大野広域連合に次いで全国で二番目となる徳島中央広域連合の設立に参加し、新たな広域行政にその重要性を認識しつつ取り組んでいるところであるが、これまで一部事務組合など既存の広域行政に携わってきた感想や今後の抱負を述べてみたい。

1. 一部事務組合による広域行政の功罪
 市町村の基礎的な行政サービスをそのスケールメリットに着目して、特別地方公共団体を設置し処理を行うことは行政コストの削減に効果があり、時代を問わず当然取り組んで行くべきことである。また、ゴミ、し尿などを処理する施設を一自治体に集中させず分散できる即ち相互貸借の中で配置できるという効果もあろう。
 このようなメリットがあり一部事務組合を活用する行政体制が広く普及している。全国的に見ても、市町村が参加している一部事務組合は一団体あたり七を越えるそうである。本町が加盟している一部事務組合もちょうど七つである。
 このように一般化している一部事務組合であるが、運営等にまつわる問題点はこれまでも様々に論じられているところである。
 
(1) 管理者の複数化
 一部事務組合の管理者は、一般的に施設所在市町村長が就任するケースがほとんどであることから、施設を分散するというメリットもあるが他方、管理者が複数化することとなる。
 一部事務組合の経営(管理運営)方針は、組合議会で審議するとはいっても実態としては管理者の権限と裁量で処理されるのが通常である。このように、圏域内のそれぞれの管理者がそれぞれの経営方針で広域行政を進めることから、そこには、○人的、財政的合理化の度合い、○職員採用に関する問題、○周辺対策の手厚さに関する度合いなどに様々な温度差や考え方の違いが生じ、同じ広域圏域にありながら行政処理の方針に関し整合性が取れない場合が少なからずある。
 このことは、構成市町村長と議会議員の不平不満を少しづつ蓄積していく結果を生み、広域行政のスクラムを弛めていく。
 
(2) 地域エゴの発生
 施設を分散させ相互に助け合っているとはいっても現実に自らの市町村に施設を抱えていると、苦労しているのは自分であるという思いがあり、先に述べた考え方の違いから生じる他団体からの要望や是正要求に際しては、成熟した議論に発展しないおそれがある。
 この状況からも(1)で述べた問題点が導かれる可能性がある。
 一部事務組合が設立されると、それによって共同処理される事務は関係市町村の権能から除外されるとはいえ、このような事情が反復増幅されれば、管理者の市町村以外は当該組合の事務事業に対する関心が薄まり、人任せ、無責任体制に向かいがちとなり好ましくない。
 
(3) 職員活性化の困難性等
 従前からいわれていることであるが、一部事務組合はその組織が小さく職員の活性化が困難であり、また、勤務体制、給与体系がそれぞれで異なり、他の組織との人事交流も困難であるため職員の士気に影響がある。
 以上述べたように、一部事務組合には広域行政に伴う様々な長所と欠点が内在する。
 これらの欠点を補うため「複合的一部事務組合制度」が地方自治法を改正して昭和四十九年度に発足したが、この組織が当時関係者に「連合」と通称されていたことには自治省の遠大な意図を感じさせる。
 いずれにしても一部事務組合の運営を良好にすることは古くて新しい課題である。
 
2. 広域連合を中心に据えた新たな広域行政について
(1) 広域連合設立の経緯
 当圏域は、これまで協議会形式で広域圏計画を策定し広域行政を進めてきたが、近年になり、ふるさと市町村圏に衣替えし、基金を造成活用しソフト事業など新たな方向性を含めた広域行政に取り組もうと検討していたところであった。
 一方、ちょうど地方自治法の改正によって新たに広域行政の主体である広域連合制度が生まれたことでもあり、この際に広域連合を設立することとした。
 これは、広域連合が地方分権の旗手として誕生したこともさることながら、私としては、市町村は広域行政にもっと前向きに取り組まなければならないと考えたからである。
 その理由としては、広域連合が制度上その支部(広域連合構成団体のうち任意の団体で構成するもの)の事務として現在一部事務組合が行っている共同処理事務を柔軟に所掌できるとされている点である。つまり、一人の連合長と一つの議会が多くの支部を所掌し運営することで一部事務組合制度に内在していた欠点が薄まり、より改善された広域行政が推進できるであろうこと。
 また、介護保険など広域的な行財政基盤に立って処理した方がベターな事務が今後、時代の要請とともに増加する可能性があることなどである。
 
(2) 広域連合による新たな広域行政
 このような経緯で徳島中央広域連合は設立されたのではあるが、今後の取り組みについてはまだ研究すべき点も多い。現在のところ徳島中央広域連合は規約上、広域行政圏計画の策定・調整とふるさと市町村圏計画の策定・調整のみを処理すべき事務と規定している。
 しかしながら、将来的に生じる新たな広域行政の需要や地方分権による事務移譲に地方自治体が否応なく対応していかなければならないことを考えたとき、広域連合が一部事務組合の不具合を修正するとともに新たな広域行政の有力な主体として活躍していかなければならないことは間違いないところである。
 私としては、そのような事態がなし崩しに到来する前に自分たち自身で、広域行政の重要性、意義、それがもたらす便益を評価して広域連合を今後いかに活用すべきか検討してみたいと考えている。
 例えば、現在介護保険法案においては、介護保険の保険者は市町村と特別区に限定されている。一方、保険基盤を安定させるため、都道府県が市町村の求めに応じて保険財政の広域化調整を行うことともされている。要介護認定の審査会は市町村の共同設置が認められている。このような事務のどの部分が特別地方公共団体である広域連合で受け持てるのかなどが検討課題となろう。なお、厚生省が立案された際どこまで広域行政制度を念頭に置いていただいたのかやや疑問を感ずるところではある。
 また、現在の広域連合制度ではふるさと市町村圏を兼ね合わせることで基金という財源があるが、現在のような低金利政策の時代にはあまり役に立たない。広域連合が主体となってばりばりと事業をこなしていくためには、構成団体の負担金以外にもある程度は自主財源が必要であり、研究課題である。
 
(3) 地方分権と広域行政と合併について
 以前雑誌で「地方分権とかけてUFOと解く。」「そのこころは話題には上るが誰も見たものがいない。」というジョークを読んだが、地方自治体特に市町村にとっては情報不足が否めなく、このジョークを笑えない状況もある。
 地方分権に関する様相が徐々に明らかになっていくなかで、生い立ちにおいて地方分権の受け皿であり旗頭であるはずの広域連合の話題がやや乏しいように思われる。地方分権を進める上で広域連合を始めとする広域行政は有力な手法であり今後大きな役割を担うであろうことから、詳細な検討並びに情報が待ち望まれているところである。
 また、地方分権推進委員会では機関委任事務廃止を打ち出した後各省庁と折衝を重ねて第4次にわたる勧告が出され、政府では勧告を受けて地方分権推進計画の策定作業が行われている。
 さらに、都道府県レベルでは市町村に移譲できる個別の事務を検討しているところが多いと聞いているが、日頃から厳しい定員管理指導を受けている身としては、移譲される事務があるならば円滑に進むよう、事務量、財源措置、体制整備の調整につき適切な検討、支援を希望するところである。
 ところで、合併も広域行政の範疇であり、我々市町村長は多様な広域行政の手法の一つとして、単に拒否反応を示すだけでなく前向きに検討すべきであると考えているが、先般実施された読売新聞による自治体首長アンケートにおいて、合併・統合に積極的賛成は全国では十九%であるのに対し、本県は8%程度と大変慎重な姿勢であった。
 徳島県の人口は八十三万人であるが、県土には50市町村が分布している。市部を除き、一町村あたり人口は八千六百人であり、地方自治体が自ら積極的に行政施策を専門的分野にまでわたって立案する時代が現実のものとなった場合には、このままで必要十分な職員体制等がとり得るのか危惧される。さらに、生活環境快適化や各種福祉施策の充実度など様々な分野における本当の地域間競争の時代には、住民が行政施策を評価し、居住地の選択するといった行政マンにとっては厳しい状況が現実化する可能性もある。
 多くの首長は合併には消極的であるがこれらのことについては漠然たる不安を抱いている。新たな行政分野について広域行政による相互の支援体制を有効活用していくとしても、行政の費用対効果など効率性を突き詰めて考えると、ある程度の規模にまでは合併による拡大が必要であるという結論に至る。
 国、地方とも財政難を始めとする深刻な問題を抱えている現在、お互いにもっと議論を深めていく必要があるのではないだろうか。そのためにも、国・県において適切な情報提供と啓発を行う体制を整備いただき、市町村においては、手法として何で対応するのか、広域行政がどの部分を受け持つのかなど地方分権を現実のものにする勉強の場をつくるなどして積極的に取り組んでいくべきであろう。
 

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