T 研究の概要
 1 研究主題設定の理由について
  平成16年10月,中教審から「子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児 教育の在り方」についての中間報告が出 された。中間報告は,小学校に入学しても教師 の話が聞けずに授業が成立しないなどの「小1プロブレム(問題)」に言及し,発 達や学びの連続性が確保されるよう「幼小一貫教育」の検討を提言している。
  実際に,小学校低学年で生活や学習に意欲がもてないことが要因の1つとなり,その後の小学校生活に適応できず,子ども のよりよい成長が疎外されているという現状が見られる。
  この課題を解決するために,小学校以降の学習につながる幼・保の学びを明らかにするとともに,幼・保・小の接続をスムーズ にしなければならない。そこで,保育所・幼 稚園での遊びの中で培ってきた他者・地域・自然・環境にかかわる力を,小学校で の学びへとつなげていくために,保育所・幼稚園と小学校の連携を図らなければならないと考え,発達や学びの連続性を明らか にした保幼小の連携の在り方について研究を進める こととした。
  
 2 研究目的
  本研究は,よりよい子どもの成長を実現していくため,学びの基盤づくりである保育所・幼稚園教育と基礎的な学習の充実を 図る小学校についての役割を整理した上で,保育所・幼稚園・小学校における教育の連携を目指す教育課程及び指導方法の 研究をすすめる。

 3 研究基本構想
            よりよい子どもの成長の実現 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 





4 研究仮説
 子どもの発達の連続性や体験の中に見られる問題解決の活動における核となる心の 動きを相互分析し教育課程を編成することにより,学ぶ意欲や喜びを体得させ,学び続ける力を育成することができるだろう。
 
 幼児は対象の動きや変化の様子を体全体で受け止め,幼児なりにその対象を確かめたり,相手の動きにこたえようとしたりして更に深くかかわっていく。この「遊び」の過 程の中に学びがある。いわゆる小学校以降の学習とは,学びのとき(1時間単位での学 び)も対象のかかわりかたも異なる形をとっている。しかし,あるものや事に注意して自ら受け止めようとする心の在り方「わくわく・どきどき・やったね」は,小学校以降 の学習の芽生えとなり,小学校の児童の学びに引き継がれていくものであると考える。そこで,本研究では,幼児と小学生が問題解決の活動において共通する心の動きを核として上記のような研究を進めるようにした。
  問題解決の場においては,幼児も児童も図のような中核となる心の動きが起こる。
 
 5 めざす子ども像
     保育所・幼稚園       小学校
○なぜを見つけてわくわくする子ども
○なぜをたしかめどきどきする子ども
○やったねと
感じる子ども
○自ら学ぶ子

○自らを高める子

 6 教育課程と研究の具体的内容
   <めざす教育課程>  
・子どもの心の動きを核とした体験から学ぶ子どもを育てる教育課程
・保・幼・小の保育や教育の連携を図る合同保育,合同授業を位置づけた教育課程
 
  
 本研究で,学力向上に視点をあてた合同保育・合同授業とは,「教える」「招待する」「訪問する」というような単なる交流ではなく,「一緒に遊ぶ」「一緒に問題に取り組む 」という問題解決の活動を言う。
  具体的な研究の視点は以下の通りである。
 @発達段階に応じた子どもの育ちや学びの姿を共通理解し,設定する。
 A子どもの発達段階をもとに,保・幼・小の遊びや学びについての心の動きをさぐる。
 B遊びと授業を一貫した学びとして捉え,ともに問題解決ができる活動(合同授業・保育での活動の在り方)を整理する。
 C合同保育・授業についての評価方法(習得・活用・態度)を探る。
 D研究についての手順や方法を含めて評価し,成果や課題について明らかにする。
 
        幼稚園・保育所・小学校の合同保育・授業について
  教育課程に合同保育・授業を位置づける意義については,本研究の目的でも述べたが,幼稚園・保育所・小学校との交流の 中で保育所・幼稚園の幼児は,学力の基礎となる気づき,感動,驚き,関心,意欲,創意工夫といった探究型学力の育成,小学 校の子ども達は,知識の活用,相手を意識した言語活用能力(活用型学力)そして,異年齢への思いやりの態度等の育成をす ることにあると捉えている。
  そこで,研究当初から合同保育・授業において,問題解決型の活動を中核に据えそれぞれのねらいを明確にし,事前研究し た上で,時間内全てにおいて合同での保育・授業 を進めてきた。しかし,実践過程や事後検証の中で,子どもの反応,つぶや き等を評価 したとき,本来あるべき幼稚園・保育所・そして,小学校の目標,ねらいがあいまいとなることがわかり幼・保・小の 交流(とりわけ合同授業・保育)の持ち方についての改善が必要であることが課題として浮かび上がってきた。
  この課題を解決するために,それぞれの校種間の教育目標を達成しつつ,保育所・幼稚園での自分と対象との関係を学んで いく遊びと小学校での単元の内容で子どもが活動する姿に共通する体験を中核とした内容を精選すること,合同保育・合同授業 の時間設定の改善をすることが必要であると考える。
  そこで,幼稚園・保育所・小学校の合同保育・授業をする場合には,活動の内容について事前相談及び事後の子どもの姿の 変容を想定して遊びと学びが無理なく重なるよう交流の場を設定し実施をすることとした。したがって,活動内容によれば,時間 内全面交流もあれば部分交流もあることを確認し実践を進めている。

U 研究年次計画
 1 平成18年度
  (1) 幼小の教育課程づくりに関する基本的な考え方の共通理解
   @ 幼・小の子どもの発達段階と学力ついての共通理解
   A 幼稚園教育要領と小学校学習指導要領の相関性・連続性の分析       
        (教職員の意識改革)
   B 小学校教育から見た学力課題と具体策の提案
  (2) 実践例の収集
   @ 保育及び授業公開等の交流
   A 特に五歳児における小学校との合同保育・授業の実践
  (3) 保護者への調査・啓発
 
 2 平成19年度
  (1) 教育課程試案での実践例収集(合同保育・授業を主とした)        
  (2) 教育課程づくり
   @ 子どもの心の動きを核とした問題解決の活動の精選
   A 合同保育・合同授業の望ましい在り方についての吟味
    ア 全体交流について
    イ 部分交流について
  (3) 合同保育・合同授業の保護者への公開
  (4) 保護者へのアンケート調査
  (5) 先進校での研修
  (6) 保護者・地域への啓発
  (7) 評価方法の検討
 
3 平成20年度
  (1)学ぶ意欲づくりのための保幼小連携の教育課程の実施
   @ 成果と課題の整理
   A 合同保育・合同授業の望ましい在り方についての吟味
    ア 全体交流について
    イ 部分交流について
  (2) 合同保育・合同授業の保護者への公開
  (3) 保護者へのアンケート調査
  (4) 先進校での研修
  (5) 保護者・地域への啓発
  (6) 評価方法の検討
 
 
V これまでの実践(各考察については,主として幼・保の立場で記述している)
 1 じゃがいもほりをしよう(幼・保・全面交流)(幼・6年・部分交流)

 合同保育・授業「ジャガイモほり」の後の様子である。
 幼稚園児Aくんと数名の幼児が放課後,学童保育(園庭)で遊んでいた。小学校校舎には,その遊びの様子を見守る6年生Bくんの姿があった。
 Aくんは,鬼ごっこ遊びをしているグループのCくんに,「入れて。」と言った。しかし,返事はない・・・。もう一度「入れて。」と,大きな声で言ってみた。しかし,・・・返事はなかった。Aくんの表情はなくなり,目に大粒の涙を浮かべ,つらい気持ちを必死に我慢しながら,鬼ごっこ遊びをするCくんたちを傍観するしかなかった。その様子をしばらく見ていた6年生Bくんは,急に立ち上がり園庭にいるAくんに歩みより「ぼくが,みんなと遊べるようにしてあげるよ。」と言った。そして,「Aくん,兄ちゃんが追いかけるけん逃げろ!。」と言い,手を振り上げて,「わぁーっ!」と大声を出しながら追いかけ始めた。Aくんはうれしそうに逃げ周った。迫力満点のこの様子に,Cくんたちは,自分たちの鬼ごっこ遊びをストップし,「Aくん,僕もいれて。」と一緒になって走り出した。「いいよ。」と,素直に受け入れ,今の楽しい雰囲気に満足気のAくんであった。他の友達も,1つの輪になって走り始めた。みんな笑顔いっぱいで,遊びが盛り上がっていっ
た。

 また,Aくんは,園庭の隅にじっと見ているだけのDちゃんの姿を見つけた。Dちゃんに走り寄り「兄ちゃんが追いかけてくれるけん,こっちへ逃げよう!」と,誘った。
 Dちゃんは,うれしそうにAくんの後をついて走り出した。
 

 次の日。登園後のカバンの始末などを終わると,幼児は次々に園庭に走り出た。「鬼ごっこする人,集まれ!僕が,追いかけるよ。みんな,逃げてよ。」と元気よいAくんの姿が印象的であった。Dちゃんは,今日もAくんとの遊びを中心に幼稚園生活を進めていっていた。
 
○考 察
 ・6年生Bくんの行動について
   合同保育・授業「ジャガイモ掘り」による異年齢の幼児・児童とのかかわり方を,午前中に体験している。その体験をもとに, Bくんが追いかけたことによって,新しい環境が生まれ,「仲良くしない。」など言わずに,みんなを仲良くさせた思いやりの行動が 自然に表現されていた。
 
 ・Aくんについて
  寂しい思いを体験したAくんだからこそ,園庭の隅で見ているだけのDちゃんの気持ちに気づき,寄り添い,Aちゃんなりの優 し さを表現できたと思う。また,次の日には,Bくんから受けた優しさをもとにして,真似て遊び,楽しかった事を『やってみよう。』と 意欲的に繰り返し遊ぶことができた。
 ・小学生との交流では,園児はかわいがられ,面倒を見てもらう立場である。そこで,そういう経験があるからこそ,保育所の友 達や未就園児たちが幼稚園に来ると,自分たちがその子に優しくし,面倒を見て上げることができる。教師が教えなくても『僕た ちもこんなに小さい時があったんだ。』ということを理解し,自分たちがしてあげる立場だということを自覚していく。
 ・ この事例は,異年齢での遊びが生み出したすばらしい体験である。同時に,何事にも意欲をもってかかわるようになり,そう した思考や判断の過程がうまく機能するためには,経験の蓄積や深まりが必要となる。その過程を詳細にみると,豊かな学びの 場となっていることが分かる。発見し,思考の過程を踏み,『楽しむ』という実に人間らしい行為を繰り返す。また,今まで経験して きたことを,遊びに適用する。その時だけの遊びでありながら,過去のつながりの上にあり,また,今度はその経験が次の遊び につながっていく。子どもの主体的な遊びは,子どもが人間としての生き方を身に付けることそのもの,すなわち,学びであると 納得できる。この力が就学後の学習する力につながると思われる。
 ・ 同級生同士の学びでは,「何を調べるのために」「どのような方法を使って」学んでいるのかを明確にもつことができにくかっ た小学生の児童も,幼稚園の幼児とともに実験に必要な部位を採集することにより,自分が何のために葉や茎,あるいは根を採 っているのかという学習の目的を意識して活動することができたとワークシートにも記述されていた。
 ・ それぞれ学習のねらいは違うが,幼児と児童とが関係性を通して,伝えあったり教えあったり,確かめ合ったりする過程で「 人と人とがつながっていく」「人と知識がつながっていく」「知識と知識がつながっていく」という問題解決の学びの過程を体感して いることが後のそれぞれの子どもの活動の姿からわかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 







 
2 いかだにちょうせん(@いかだをつくろう)(幼・6年・全面交流)
(小学校)
 六年生の子どもが休み時間に教師に話しに来た。







 
子ども「幼稚園の子が夏休みにプールに来て,大きいプールに入りたいっていって
   たけど・・・・。入らせてあげたいんです。」
教 師「それじゃあ,入りたい子をだっこして大プールに入れてあげる?。」
子ども「そんなんでなくて,みんないっぺんに大プールに入れてあげたい。」
子ども「でっかいビート板のようなのがあれば,みんなを乗せてひっぱってあげるのに。」
子ども「ペットボトルでいかだをつくっているテレビ番組を見たけど,それやってみたらどうだろう。おもしろそう。幼 稚園の子も一緒にしたら,もっとおもしろいよ。」







 
 子どもたちの話は,どんどん広がり,幼稚園の子と一緒にペットボトルでいかだをつくって大プールで遊ぶ計画を立めた 。子どもたちの計画を幼稚園の教師に伝えると,幼稚園の子どもたちも興味や意欲を持つだろうということで合同保育・ 授業を設定することとなった。六年生の子どもは,空気をとじ込めたペットボトル1本でどのくらいの重さまで浮くのか,幼 稚園の子どもが全員いかだに乗るには何本のペットボトルが必要なのかを計画し始めた。家族の人にも頼み,いかだ づくりの日までにできるだけペットボトルを集めるように努力していた。その他にも,ペットボトルとペットボトルをつなぐた めには,ガムテープだけでは水に濡れるので十分でないかもしれないということで,
麻ひもを用意したりする子どもも出てきて,やる気満々で,いかだづくりの日を迎えた。
 
(幼稚園)
 前日に今日の交流の話しをしていたので,子どもたちは普段は入れない大プールに入れるということに期待感をもって 登園してきた。朝から,「どうやってつくるのだろう」「僕たちでも大プールいけるんかな」と興奮気味にわくわくした気持ち を教師や友達に話した。
 材料をたくさんもった6年生がリズム室に入ってきた。「それどうするの?」「ペットボトルいっぱいやなあ。」と興味津々の表情。「ペットボトルいっぱいいるけん集めて。」の6年生の言葉に,子どもたちは幼稚園にあるペットボトルを探しに行った。各自色々な形のペットボトルを持ち,「次はどうするの?」と聞いたり,自分なりにできることをしようとする姿があった。「ガムテープでくっつけるから,そっちをもってくれる?」「うん。分かった。ここでいい?」など,教えたり教えられたりしながら,作業を進めていった。「なかなかひっつかないなあ。」「なんでだろう?」とAくんの疑問に「同じ形がいいんじゃないの?」とBくん。「丸と四角で,ぼこぼこ・・・。どうしよう・・・」とCさん。その様子に,6年生が「これでどう?」と同じ形のペットボトルを集めて作った部分を見せた。「うわあ。くっついとる。」「同じ仲間,集めてこよう。」と嬉しそうな表情で探しに行った。また,Dさんはペットボトルのふたをいっぱい集めて持ってきて,一つずつふたを付け始めた。その様子を見ていた6年生が「それそれ,ふたがいるんよ。大事なことよくわかったね。」とDさんの行動を認めてくれた。Dさんは,ちょっと得意そうな表情で「ふたをもっと集めてくるね。」と走っていった。
 みんなで協力して大きないかだが2そう出来上がった。「これから,プールに持っていって浮かべてみよう。」と元気よく出発した。
  いかだにちょうせん(Aいかだであそぼう)(幼・6年・全面交流)
(幼稚園)
 いかだに早く乗りたい思いから,いつもより早く着替えをすませ,プールに集まった。始めは小プールにゆっくりペットボトルいかだをうかべた。「うわあ。浮かんでる。」「のれるかなあ。」と幼児たち。「さあ,みんな順番にのってごらん。」と6年生の言葉にすぐに反応し,近寄った。自分が乗っても浮くのか不安な所もあり,「いけるん?」「のってもしずまんの?」と問いかける。「6年生みんなでもっとくから,心配ないよ。」の言葉に安心して,ゆっくりとのり始めた。1人,2人・・・とのり,「何人のれるのかな?」とおおはしゃぎ。6人をのせたいかだは6年生の力によって,もうスピードでかけぬけた。「うわあ。おもしろい!」「すごい,ほんまに乗れるんだね!」と感動すると共に,6年生の力に憧れの気持ちが芽生えていった。「次は,大プールに挑戦しよう!」と6年生が言うと,幼児たちも先ほどの不安とは違って,6年生と信頼関係ができ,「いこう。いこう。」とやる気まんまん。そのやる気が持続し,大プールでの歓声も響いた。
○ 考 察
(いかだ作り)
・6年生に,必要な事を言葉で伝えたり,分からないことを聞いたりと,自分のできるこ とをやってみようとする姿が見られた。
・気持ちや言葉で表現しにくい幼児もいたが,その子なりに6年生の姿をよく見て,真似て手伝ったり,必要な素材を集めたりして遊びに参加する意欲が見られた。
・共通の目的をもって,素材を生かしながら,工夫し,一人ひとりが目的を意識し,自分なりの思いを達成(満足感)することができた。
・いかだを一緒に作る中で6年生と一緒に進めているという一体感が生まれていった。
(いかだのり)
・いかだを浮かべ,乗って遊べたことにより,大きな喜びや協力する大切さを知り,感動体験につながった。
・一人ではできないことも,みんなで力を合わせると大きな事ができることを実感し,6年生に対する尊敬の念が強くなった。
・6年生と触れ合い,自分の感情や意志を表現しながら,共に楽しみ,共感し合う体験をした。そして親しみをもち,人とかかわることの楽しさや人の役に立つ喜びを味わうことができた。
・具体的な作る方法や遊び方を知り,幼児はイメージや活動の見通しがもてて,再び意欲もわいてやってみたいという気持ちが芽生えた。
・6年生の学びとは
  本実践では,それぞれの子どもがとじ込められた空気は水に浮くという知識を活用して,主体的に計画を立て,必要と思われるものを持ちより,幼稚園の子どもとともに 楽しみながら学ぶ姿が見られた。何よりも子どもの顔が輝いたのは,いかだをプールに 浮かべ,その上に幼稚園の子どもを乗せて浮いたときであった。「やったぁ。みんな乗 れとるよ。浮いている。」「すごいなぁ。」「ほんまにペットボトルで浮くんじゃ。」と実感した瞬間だった。知識と体験が結びついた瞬間である。子ども達は知識を活用する楽 しさを幼稚園の子どもたちとともに味わった。この後,子どもの口癖は「やってみない と本当にはわからない。」となった。
 3 色水マジック(保・幼全面交流)(幼・6年部分交流)
(幼稚園)
 幼稚園では園庭にさいているオシロイバナやトレニアの花ガラを集めて色水遊びが流行している。絵の具では味わえない色の透明感を味わったり,すり鉢を使って自分ですりつぶす体験を通して色の不思議さを楽しんでいる。六年生の子どもが休み時間に教師にリトマス液の授業について話に来た。
(小学校)
 子どもは水溶液の性質を調べる学習でリトマス試験紙の使い方を学んでいる。授業中リトマス試験紙は,リトマスゴケという植物の色素をしぼってつくられていることを話すと,「リトマスゴケが植物だったら,他の植物でもできそうだ。やってみたい。」という声が出た。子どもたちは,マイリトマス液をつくるために,身の回りのミカン,ブドウ,サツマイモの皮,ノボタンの花びら等を用意してきた。用意できない子どものために教師はムラサキキャベツを用意した。どの植物の汁も酸性の水溶液を入れると発色が鮮やかになる。特に,ムラサキ色の色素が濃いノボタンの花びらやムラサキキャベツの汁が酸性・アルカリ性の溶液に反応する様子に子どもは釘付けになった。酸性の水溶液によりムラサキ色が透明なピンク色に,アルカリ性の水溶液によりムラサキ色が緑色へと変化するのだ。酸性・アルカリ性の変化の様子だけでなく自然の美しさに感動する授業となった。ムラサキキャベツを使ってリトマス液をつくっていない子どもは,「今度はムラサキキャベツを使って,もう一度つくってみたい。」という思いを強くした。ムラサキキャベツを使ってリトマス液をつくった子どもは「幼稚園の子が色水遊びをしているから,教えてあげたい。」ということを話していた。
(幼・6年部分交流) 
 紫キャベツの色水が紫からピンクへ,また紫からグリーンへとかわる驚きや不思議さを体験した。「なんで色がかわるの?」「きれいなあ。」「何いれたらかわるの?」と6年生に質問をする。6年生からの説明もあるが,目で見た刺激が強いため,話も十分に聞けず,自分も早くやってみたいという気持ちが出ていた。6年生に教えてもらいながら,すり鉢にキャベツをいれ,一生懸命に色を出すことにとりくんだ。「なかなか色がでない。」というAくんに対し「少し水をいれてみる?」とアドバイスをする6年生。「うわあ。出てきた。紫色だよ。これからどうするの?」と生き生きとした表情で尋ねた。「魔法の水,入れてみる?」「うん。入れる。入れる。」と進めていった。「うわあ。ピンクになった。いっぱい集めて持って帰るね。」と意欲的に活動に取り組んだ。 
 翌日,昨日した体験を,今度は保育所の友達に教えてあげたり,また自分も再チャレンジし,色水遊びを楽しんだ。幼稚園ではレモンを用意し,自分で試してみたり,水の量を加減したりして色水の美しさを感じた。
○ 考察
・友達と遊びの相談をしたり助け合うことやお互いの力を認め合うこともできるようになってきた。前日に6年生と体験したことをもとに保育所の友達に教えてあげたり,言葉で意志を伝えられるなど,相手の思いをくみ取ること,自分や友達のよさに気付くこと,人と共にする楽しさをけいけんすることなど『みんなでする活動』の共同性の姿が見られるようになった。
・保育所の友達に,自分が体験して気付いたことや,6年生に認めてもらって嬉しかったことを,返して行く姿が見られた。「頑張ったね。」「もう少し力をいれてごらん。」などの言葉を使い,認め合い,励まし合う関係ができてきた。
4 ころがしあそび
 (幼稚園)
 小学校の先生が幼稚園児を対象に「理科実験教室」をしてくれる。これは科学の不思議に着目した実験をいくつか紹介し,子どもたちに体験させてくれるものだ。今年は身近な材料をもとにレールを使ったしょうとつ実験をしてくれた。高いところからビー玉を転がすと勢いよく遠くまでレールの上を転げていった。みんな,口をあけて驚いたり,びっくりしていたが,私もやってみたい気持ちがでてきた。子どもたちの好奇心はかきたてられ,「僕もビー玉ちょうだい。」「鉄の玉かして。」「丸かったらボールでもいいのかな。」と試してみようとする気持ちが高まった。それぞれにビー玉を持つがいろいろな素材を目の前にAさんは「ビーズ(ハート型)も転がるのかな?」と試した。6年生とかかわりながら何回も繰り返すうちに,長いレールにそって転がるビー玉と一緒に走り出しりだす姿が見られた。「うわあ。早い。負けた。」「今度は負けないよ。」と何度も繰り返した。
(小学校)
 地層の堆積実験の時に,老朽化したプラスチックのわたり廊下を分解して地層の出来方の観察・実験をした。土手の上からわたり廊下を逆さまにしてといのように使い,体積実験をし推論したあと,子どもが「これは,去年のしょうとつ実験みたいな感じがする。去年は高さと重さがしょうとつパワーを決めることを見つけたけど,このといを使って去年よりももっとすごいしょうとつ実験遊びができそうだ。」「雨の日は遊び場がなくて,ホールで暴れてしまったり,廊下を走ってしまったりするから,雨の日の遊び場のためにでっかいしょうとつ実験装置を作りたい。」と言って昨年学んだことを活用して,楽しみながらの製作がはじまった。
○ どんぐりころがし
 衝突実験を経験した幼児たちは,クラスに帰り何でも転がして遊ぶようになった。「どんぐりも転がるよ」と友達のきづきから,どんぐり滑り台が始まった。「たかくしたらよく転がるよ。兄ちゃんたちがしていたね。」「長くしたいなあ。」とイメージに合う材料をさがしにいった。  
 
○考察
 ・小学校教師による特別な行事の魅力に子供たちのわくわくした気持ちが伝わってくる。(理科実験)に参加をし,見る,聞く,きづく,驚くだけではなく早速自分でも試 してみようという行動に向かう楽しい遊びであっただろう。参加をする前とあとでは子 どもの思いに変化が生じ,それをみこんで前後の環境の構成をすることが特に大切だと 実感した。
 ・子どもたちの不思議という思いやわからないことを確かめるために,小学校の担当教師に聞く機会もでき,小学校への憧れや期待に結びつく期待になった。子どもにとってのその学びの機会に,繰り返し取り組めるゆったりとしたクラスでの環境作りが必要に なると実感した。
 
 ・教師は子供の表情や行動に目を向け,言葉に耳を傾けることが必要になる。そして,子供が何を求めているのか,どんなことを感じているのか知る努力をし,援助をしていくことが大切である。これからやりたいことを予測して,環境を用意することが必要になる。
W 成果と課題
 1 研究の成果
  ○学力向上を視点においた教育課程は,特別なものではないことがわかった。なぜなら,小学校も幼稚園も保育所も既存の教育課程をもとに,それぞれが連携し教育内容の共通性を焦点化した問題解決の活動を組み合わせ,問題解決の場面の特性に応じた空間と時間の設定に配慮することにより編成することができたからである。
  ○問題解決の活動の場での子どもの心の動きは,保・幼・小の子どもに共通してみられるものであり,それを核として教育課程を編成し実践を継続することは,保・幼・小の子どものそれぞれのめあてを達成しつつ,学ぶ意欲を育成することがわかった。
  ○合同保育・授業とは,「教える」「招待する」「訪問する」というような単なる交流ではなく,「一緒に遊ぶ」「一緒に問題に取り組む 」という問題解決の活動となるよう活動の場づくり(環境設定)をすることが大切であることがわかった。
  ○学力向上を視点とした合同保育・合同授業では,学年や問題解決の段階で全面交流が最適である活動,部分交流が最適である活動に整理する必要のあることがわかった。
  ○合同保育・授業で,それぞれの子どもが主体的に活動するためには,活動の前後の環境設定や支援を校種間で計画し,子どもの意欲を高めたり,願いを実現できるような支援が必要である。
  ○合同保育・授業の評価は,個人内評価・形成的評価を進めていく。授業にさいしては,授業前の子どもの育ちや実態を明確にし,授業後には,めあてに対しての変容を記述し評価をしている。その結果,保育所・幼稚園の子どもは,合同保育・授業の実  践後には,遊びに対してさまざまな工夫をすることが見られた。保育所・幼稚園の子どもの場合は,自分たちより年下の友だちに遊びを紹介し,何度も繰り返しやろうとする姿が見られた。小学校の児童は,研究当初からすると,現在では,論理的に考え  ようとする力がそれぞれの個人内で伸びてきている。
  ○個々の保育と授業であったものから,問題解決の活動を通して,同じ時間や空間を共有する学びに転換することにより,それぞれの校種の教師がそれまで見えなかった子どもの育ちの姿が見え,教師の意識改革を図ることができた。
  ○保育所・幼稚園教職員は,小学校教育の見通しをもち教育活動を実践するという意識が深まった。
  ○小学校教員は,幼児は,保育所・幼稚園教育の遊びを通して環境とかかわり様々なことを学び,保育所・幼稚園教育で身につけた力を生かし小学校での学びを深めるということが交流を通してよくわかった。
  ○交流実践を通して,学力観の共有・教育の方向性が共通理解され,ともにそれぞれの独自性を大切にし,それぞれの校種の特性を生かし,同じ方向性で協力できることを実感した。
  
 2 今後の課題
  ○子どもに豊かな体験をさせ,その体験を適切に価値づけるための教師の指導力の向上
  ○合同保育・授業を中核にした保・幼・小連携の教育課程の実践と改訂
  保護者への授業公開と啓発
  ○合同保育・授業の子どもの変容を具体的な子どもの姿でとらえ評価していくこと。